暗色コメディ 連城三紀彦(文春文庫)
この本を書いた人どんな人
この本を書かれた連城さんは、1984年に「恋文」で直木賞を受賞しておられます。
私の連城作品の初読は、この「恋文」でした。
この「恋文」は儚く美しい作品という印象でしたので、以降、その印象を崩すことができず、ミステリーを読むことができませんでした。
しかし、連城さんのデビューは、ミステリー作品だったことを今になって知り、あの美しい情景を描く作家さんが、どんなミステリーを描くのか、興味と期待となり、本書を手に取りました。
内容は
この「暗色コメディ」は、「著者の処女長編にして本格ミステリ」とのことですが、ミステリとはなんなのか、わからなくなるくらい混乱する作品です。
というのも、自分に殺されるという女、車にはねられたが生きているという男、妻が入れ替わっているという男、妻があんたは死んだと言って聞かない男、これらの精神を蝕まれた登場人物4人が、入れ替わり立ち替わり、幻覚とも妄想ともつかない世界を行ったり来たりします。
そうして、著者の描く世界の美しさに引き込まれて、読み手の方でも、どれが登場人物による妄想なのか、現実なのかの見分けがつかなくなるのです。
誰が生きているのか、誰が狂っているのか、真実はどこにあるのか、すべてが幻想なのか。
しかし、この4人の見る世界が、一つのストーリーとなって、それが一つのミステリを構成しています。
犯人がいて、殺意があり、トリックがあります。
私の感想
正直なところ中盤までは、4人の見る世界に、私の頭がおかしくなりそうでした。
主人公となる人がいないわけでもないのですが、探偵役のようなはっきりとした、事件解決への要素を拾い集めていく人がいないので、読み手の本でも視点が定まらず、精神を蝕まれた4人が見る4つの世界が、どうミステリを構成し、どのような伏線・仕掛けがされているのか、先行きが読めず非常に心配でした。
どうなるの?大丈夫?という感じで。
しかしまあ、中盤過ぎあたりから、探偵役らしき人も登場し、なるほどそうきたかと。
4人が見る世界の中から、丹念に事実だけを拾い出し、一つのミステリーとして仕上がっていく後半は、やっと現実に戻れるといった安堵感すらあります。
大変な本を読んでしまったなと、そう思った本でした。