小説家という職業 森博嗣(集英社文庫)
小説家という職業 (集英社新書) 森 博嗣 集英社 2010-06-17 売り上げランキング : 20158
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この本は、小説家である著者が、小説家を職業として捉え、どのようにして小説家になったのか、経緯と戦略を解説し、小説家になった後の心構えや出版界の問題と将来にも触れる。
ところで、この本を手に取る人にはどんな人がいるのだろう。
恐らく、大きく分けて二つがあると思う。
一つは、小説家という職業に興味があって、少なからず小説家になりたいと思っている人。もう一つは、小説家・森博嗣が好きな人。
まあ単純に言って、ただタイトルで選んだか著者名で選んだかのどちらかなのだろうと思う。
この本は、小説家という職業に興味があって、小説家になりたいという人には、現実を見せつけられる本だ。
著者は、この本の全編において、
僕は、小説が特別に好きではない。それを読むことも書くことも趣味にしたことはない。
という趣旨のことを繰り返し述べている。また、文章を読むのも苦手だったそうで、
自分が読むのが苦手だからこそ、人が読んで理解しやすい書き方がどんなものかを常に考えた。
そうである。そして、
小説は文章だけで構成されているし、日頃から嫌でも文章をたくさん書いているわけだから、「できない」という発想はなかった。
とも著者は述べている。
イチロー選手が、棒を振ってボールに当てるだけ、10回やったら3回くらい当たるのは当たり前と言ってるような感じかなと思う。
このような著者が繰り出す「書いたら書けた」発言は、小説家になりたいという人には、才能の差のようなものを感じずにはいられないのではないかと思う。
とはいえ、全く参考にならないというものでもない。
特に、小説を書くことでお金をもらうこととはどういうことか、タイトルにあるとおり「職業」にすることについて書かれている部分には参考となることがたくさん書かれている。
冷静に考え、売れるものを作った
どれだけの人数が、あなたの作品に金を払うのか、ということが問題である。
引用が短いので、これだけ?という感じがするが、とにかく、小説家になりたい人には、当たり前、かつ、大変厳しい現実を参考にするしかないようである。
一方、私を含め森博嗣ファンには楽しい本である。
小説を読むことでは得られない著者との直接(本を介しているので間接かもしれないが)対話できるからである。
「小説家になりたい」ともし願っている人がいるとしたら、その人は、すでに小説家になっている、と考えて良い。そう、あなたはもう小説家だ。そして、「なりたい」ならば、もう作品は出来上がっているはずである。小説家になりたいけれど、まだ作品を書いていない、という状況は滅多なことではありえない。
このような発言にも、単なるファンであれば、小説家になりたい人ほどブルーにならなくても済むし、むしろドライな発言に、惚れ惚れしてしまうものである。
ともかく、この本のタイトルは出版社の方がつけたらしいが、上手につけたなあと感心している。このタイトルであれば、数多いる小説家になりたい人も買ってくれる可能性があるからだ。
「小説家・森博嗣という職業」
これなら、ちょっとは内容に近いと思うな。
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