あん ドリアン助川
最初、「あん」というタイトルを見て、女の子の名前かなと思いました。
そうではなくって、餡子の「あん」、あの甘い「あん」なのでした。
いい加減などら焼きを売る「どら春」の雇われ店長の主人公は、70過ぎのおばあちゃん吉井さんをアルバイトに雇います。吉井さんが50年作り続けていきた「あん」を作ってもらうためです。
この本は、そうして「あん」を作りつつ主人公は成長していく・・・というありきたりな内容の本ではありません。
ハンセン病を取り巻く社会問題も織り込まれているのです。
でも大丈夫です。二人が作る「あん」が甘すぎず、しつこくなく、優しいように、この本が取り扱うテーマが重たいものでありつつも、物語は、重すぎず、暗すぎず、優しく暖かく描かれています。
著者の名前も、なんでドリアン?と思いましたが(すいません。)、ドリアンさんは、お名前からは想像できないほどの柔らかな空気感のある文章を書かれるお方です(関係ないかな。)。
厨房に入ると、昨晩から水に漬けていた小豆がボウル一杯にふくらんでいた。一粒ずつが光って、調理台の周りの雰囲気を変えていた、食材というよりも、なにかの生き物の群れを見ているかのように千太郎には感じられた。「ああ、いいね」と、徳江はボウルに顔を近付けた。
あったかくて甘い、一番美味しいどら焼きを想像してください。
(甘いのが苦手な方は、あなた一番大好きな食べ物を思い浮かべて。)
その美味しいのを口一杯にほおばる時の幸せな気持ち。
この本を読むと、そんな幸せな気持ちでいっぱいになって涙が溢れてきます。
鬼の目にも涙です。おすすめです。
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