かわいい自分には旅をさせよ 浅田次郎(文春文庫)
この本書いたのどんな人
この本の著者は、『地下鉄(メトロ)に乗って』『鉄道員』などで知られる小説家であり、日本ペンクラブ会長もされています。
この本を読んで初めて知ったのですが、過去には、信念を持って陸上自衛隊に入隊されていたそうです。
さまざまの苦労をしてこそ、志は定まるものである。男子たるものたとえ玉砕しようとも、石畳の道を歩むように安逸な人生を恥じねばならぬ。そうして道理を知ればこそ、他人が何と言おうが私は後世の家族のためにこう考えている。子供や孫の幸福を希って財産を残してはならぬ。
誠に失礼ながら、著者は、なかなかの頑固親父とみました。
内容は
この本は、エッセイです。
国内、海外の旅に関するエッセイ、街道小説を一つ挟んで、著者の小説家としての成り立ちや、自衛隊のこと三島由紀夫のこと、本当にいろいろ、身の回りのことや、著者の心に映ることを一つ一つ丁寧に言葉に置き換えておられます。
ちょっと文体が堅い目なのですが、読み進めているうちに、心地よくなってきます。
私の感想
私は、義理人情とか、心温まる人間模様的な物語が苦手で、実のところ、著者の本は読んだことがない。
もっぱら話の序盤で誰かが死んだり、騙されたり、血が出たりする本を読んでいる。
そんな私が読む、おじさまの堅苦しい、あ、いや、文学的エッセイ。
この本は、おじさま文体フェチの私にはたまらん一冊です。
例えばこんな感じ。
先人たちは不便な旅をしていた。しかしその一方で、悠長であるが故の深い旅の味わいを知っていたはずである。
仕事に振り回され、日常に埋没し、四十を境に醜くなって行く日本のオヤジは、美しくなるべき自然の権利を自ら放棄しているのである。
クリスマス・イブを恋人と共に過ごす若者は頼もしい。恋人のいない若者たちが寄り集まってヤケクソの散財をするのも、それはそれでまた頼もしい。不景気など他人事だとする活力こそが、いずれ社会を担う彼らの魂でなければならない。
どうですか、このおじさま的文体。そして、ちょっと叱られている感が、これまた良い。
この本を読んで、義理人情にとんと疎い私ですが、近頃、おっさん化が激しいのか、心に染みてしまいました。
もしかすると、私にもちょっとは、義理人情が残っていたのかもしれません。
よかった。ほっ。
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