諦める力 為末大(プレジデント社)
為末大さんといえば、陸上競技の選手という以外、どんな方なのか知らなかった私は、この本を読んでとても驚きました。
文章がとても綺麗で、力強いのです。
筋肉質に引き締まったアスリートのような、余計なものがなく、ただ伝えたいことに誠実な文章なのです。
おそらく、為末さんご本人が、肉体的にも精神的にも、とてもしなやかな方なんだろうなあと思います。
本を読んで、為末さんのことをもっと知りたくなり、オフィシャルサイトを除いていみましたが、これが洗練されていて、またまた驚きました。
こちらページの様子からも、為末さんのシンプルな強さを伺い知ることができると思います。
さて、この本は、マイナスなイメージになりがちな「諦める」ということを積極的に捉える本です。
辞書を引くと、「諦める」とは「見込みがない、仕方がないと思って断念する」という意味だと書いてある。しかし、「諦める」には別の意味があることを、あるお寺の住職との対談で知った。
「諦める」という言葉の語源は「明らめる」だという。
仏教では、心理や道理を明らかにしてよく見極めるという意味で使われ、むしろポジティブなイメージを持つ言葉だというのだ。
見込みがあるのか、ないのか、断念すべきかどうか、自分の進むべき方向をその理由も含め、よく見極め判断する。
ここでいう「諦める」は、簡単に「やーめた」というのとは違うようです。
著者曰く、
「自分の才能や能力、置かれた状況などを明らかにしてよく理科し、今、この瞬間にある自分の姿を悟る」
諦めるということはそこで「終わる」とか「逃げる」ということではない。そのことを心に留めながら本書を読んでいただければと思う。
なのだそうです。
このところ、ほとんど合言葉のように繰り返し叫ばれている「諦めたらそこで終わり、努力をすれば夢は叶う」という言葉と、全く逆の考え方です。
皆それぞれ持てる力も環境も違います。
達成できそうもない目標であってもなんでも、「努力すればできる」というのは、間違っているということを誰も言わなくなりました。
人間は変えられないことのほうが多い。だからこそ、変えられないままでも戦えるフィールドを探すことが重要なのだ。
コーチをつけずにトレーニングをされたという為末さんは、本当に何度も自問自答を繰り返され、自分と向き合ってこられたのでしょう。
何に力を注ぎ、何を諦めるのか。
諦めることで踏み出せる一歩があることを教えてくれます。
この本は、前向きな本でありながら、力みがなく、ふっと肩の荷が降りるような感じがします。
力いっぱい生きている人は、何かを諦めてみるのもいいかもしれません。
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