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人のあがきは、もがけがばもがくほど深く沈む

ガラスの靴・悪い仲間 安岡章太郎(講談社文芸文庫)

 

 

この本書いたのどんな人

この本にも収められている「ガラスの靴」でデビューし、この作品は第25回芥川賞の候補となった。

また、「宿題」で第27回芥川賞候補、「愛玩」で第28回芥川賞候補となり、「悪い仲間」・「陰気な愉しみ」では、第29回芥川賞を受賞した。

これらが、デビューから2年の間のことなのだから、著者の才能にはほとほと感心しする。

 

1920年生まれの著者は、戦争を生き、時代の変化と価値観の転換を経て、繊細な心を覗き込むように描き出します。

 

内容

この本では、芥川賞受賞作や候補作も含めた短編が13編が収められています。 

戦争を経て、経済的にも精神的にも、ままならない生活を、劣等感、無力感、焦燥感とともに描いていきます。

 

主人公は、大人だったり、子供だったり、大学生だったり。

私は、転校先に馴染めず、宿題をすることもできずに次第に行き場を失う子供を描いた「宿題」、青年の悪い世界への憧れと心のズレを描いた「悪い仲間」、親友に騙しそのことを懺悔するかのように綴る「王様の耳」が印象的でした。

 

私の感想

この本の登場人物は皆、こうありたいという思いとは裏腹に、物事は小さなズレから次第に、悪い方へ悪い方へ転がっていくようで、そうじゃない、こんなはずじゃなかったと、喘いでいるようだ。

救いを求めようにも、救いはないというのが、この本の特徴なのかもしれない。 

この本を読んでいると、私の方まで息苦しくなる。

 

生きているとうまくいかない、思うようにならないことは多々ある。

そんな時、頑張ればなんとかなる。努力が大切だ。前向きに。

などなど、現代では、自己の努力でなんとかできるかのようにいう。

 

 

しかし、人のあがきは、もがけばもがくほど深く沈む。

そんなとき人は、もう上を見ることをやめてしまうのだろう。

 

特に、戦中・戦後には、私には本当の意味で理解し得ない理不尽かつ不合理なことばかりだったことだろう。

その重苦しさが、この本の奥深くに横たわっている。

 

 

 

 

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