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『花ざかりの森・憂国』三島由紀夫

花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)

花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)

この本は、タイトルとなった「花ざかりの森」「憂国」を含む

著者自ら選んだ13編の短編集である。


作品を読むより先に、著者が割腹自殺をしていることを知っていたため

どうしても作品の世界よりも、著者の人物像に気がいってしまう。

そのせいか、どの作品も鮮やかでありつつ、血のような濃厚な色を感じる。

先入観というものは恐ろしいものである。


なかでも好きなのは「詩を書く少年」。


詩を書くことについて、天才を自負する少年は、

心に冷たい箇所があり、少年らしい感受性はない。

恋愛を素材とする詩も、恋を経験してはいなかったが、言葉にはできた。


そんな折、先輩が恋に落ちる。

少年が目の当たりにした恋は滑稽であり、

少年には書かれた恋のほうがずっと美しく思えるのである。

このとき『僕もいつか詩を書かないようになるかもしれない』と少年は生まれて初めて思う。

だが、

自分が詩人ではなかったことに彼が気が附くまでにはまだ距離があった。


著者のあとがきによると、

『詩を書く少年』には、
少年時代の私と言葉との関係が語られており、私の文学の出発点の、
わがままな、しかし宿命的な成り立ちが語られている。

という。


文章を書くことは、自己表現の場であるとしても、

そこには自己がないということもありうるわけで、

私がここに書くことも、私であって、また私ではなくて、

なんだかわからないただの言葉の羅列なのかもしれない。

そう思うと、私自信が滑稽に思え、

詩を書く少年が好きになった。