dokusyo

本を読んで社会をのぞき見

読書記録・本のおすすめ・その他もろもろ

『きもの』幸田文

きもの (新潮文庫)

きもの (新潮文庫)


明治時代の終わりの東京下町に生まれた主人公、るつ子。

簡単にいうと、女の子がお嫁に行くまでのお話。

しかし、女の子というものは、そうは簡単にお嫁にはいかないものなのだ。

とくにるつ子は、上のお姉さん二人に振り回され、

お母さんの看病や地震に見舞われるなどし、不運だ。


そんな中、どんな時も彼女を包む「きもの」は、

彼女をきりりと包んだり、華やかに包んだりする。



二人のお姉さんも、母も祖母も、お友達も、父の愛人も、

登場する女は皆、その人を表すかのような

「きもの」にくるまれている。


どんなにくるんで隠しても、

その人の本質が、きものを通して、かえって顕わになるようだ。




読者が女性なら、この本に登場する女性の誰かに、

自分を重ねてしまうだろう。


主人公のるつちゃんなんて、気難しくって、まるで私だと思う。

けれど、私は父の愛人が最も好きだ。すっと私を重ねてみる。

いろんな生き方があっていいんだ、なんて開き直る。

楽しい。

女性には、楽しい本だと思う。たぶん。



私もいつか、自分の手で、きものを着てみたいなと思う。

そのとき、私は背筋をしゃんとして、

凛とした涼やかな女でありたいと思う。